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Jabaraステント(CSEMS-UPF)を用いた大腸悪性閉塞に対する新たな治療戦略:3症例の報告

  • 公益財団法人 がん研究会有明病院 消化器センター 肝胆膵内科 三重 尭文 先生 笹平 直樹 先生
  • 北九州市立医療センター 消化器内科 主任部長
    隅田 頼信 先生

01Introduction

大腸癌は本邦および世界的に増加の一途を辿っており、その経過中に約7~29%の症例で大腸閉塞を併発すると報告されている1)。従来、大腸悪性閉塞に対する標準治療は緊急手術であったが、40~50%に及ぶ高い合併症率と15~20%の死亡率を伴うことが、長年にわたる臨床的課題であった1)。
こうした背景のもと、内視鏡的に自己拡張型金属ステント(self-expandable metallic stent: SEMS)を留置するBridge toSurgery(BTS)が確立された。SEMSによる速やかな減圧を図り、全身状態の改善や精査の時間を確保したうえで待機手術へ移行するこの戦略は、閉塞性大腸癌の治療体系におけるパラダイムシフトとなった。現在、SEMSは「アンカバード(uncovered SEMS:UCSEMS)」と「カバード(covered SEMS: CSEMS)」に大別される。UCSEMSは組織嵌入による強固な固定力を有する反面、腫瘍内増殖(tumor ingrowth)による再閉塞が最大の弱点である2)3)。一方、CSEMSは被膜によりtumor ingrowthを効果的に抑制するものの、逸脱(migration)率が高いことが臨床普及を妨げる最大の障壁とされてきた4)5)6)。大規模ランダム化比較試験(RCT)であるCReST2試験では、緩和目的の患者において6か月以内のステント逸脱率がカバード群16.2%、アンカバード群7.2%と有意差を認めている(p=0.012)4)。現行のESGE 2020ガイドラインでは、左側大腸悪性閉塞に対する緊急手術の代替としてSEMS留置が強く推奨されているが、カバードステントの推奨レベルはアンカバードに比して低い7)。
本邦で開発された川澄ジャバラ大腸ステント(Kawasumi Jabara colonic stent™)には、full covered typeとpartial coveredtype、いわゆるCSEMS-UPF(Covered SEMS with an Uncovered Proximal Flared end)と称される独自の構造を有するタイプがある(図1)。我々が好んで使用しているpartial covered typeは、近位端に傘状のアンカー機構(uncovered proximal flare)を配し、本体に蛇腹構造(bellows structure)を採用することで、逸脱防止と軸方向の追従性(axial compliance)を両立させている8)9)。さらに、ステント外側に被膜を配置する構造は従来のダブルレイヤー構造とは根本的に異なり、金属ワイヤーが腫瘍と直接接触しないため組織嵌入が生じにくい8)。近年の多施設後方視的研究では、Jabaraステントは従来のアンカバードステントと比較して留置中および手術時の組織損傷が軽微であったと報告されている8)。また、Park らによるRCTでは、CSEMS-UPFはUCSEMSに対して開存期間および逸脱率において統計学的非劣性が示された10)。しかしながら、数値化し難い臨床的柔軟性、すなわち意図的抜去、用手整復、化学療法奏効時の安全な自然脱落といった多機能性については、十分に検討されていない。本報告では、Jabaraステントのこれらの特性を活用した3症例を提示し、大腸悪性閉塞治療における本デバイスの臨床的意義を考察する。

フルカバードパーシャルカバード

図1

02症例提示

2.1. 症例1:Bridge to Surgery(BTS)/ロボット手術中の術中抜去

臨床背景:40代男性。直腸Rs~Ra移行部の腫瘍による悪性大腸閉塞を認め、BTS目的でJabaraステントを留置した(図2)。
手技と経過:留置直後より良好な排便・排ガスが得られ、速やかな減圧を達成した。BTSの至適期間とされる約2週間1)を経て、ロボット支援下直腸切除術を施行した。術中、外科チームより吻合の安全性確保および切除ライン確認を目的としたステント抜去の要請があった。
本ステント特有の蛇腹構造は縦方向への伸展性を有しており、スネアで把持して牽引するとステント自体が伸びて細径化するため、愛護的な操作で肛門側からの意図的抜去が可能であった(図3、動画1)。加えて、被膜が腫瘍との組織嵌入を阻止しているため、抜去時の抵抗はほとんど認められなかった。ステント抜去後に切除ラインを内視鏡的に確認し(図3d)、ステントによる物理的干渉のない状態で安全な吻合を達成した。

図2

図2

図3

図3

動画

2.2. 症例2:Bridge to Surgery(BTS)/直腸留置と用手整復

臨床背景:60代男性。直腸Ra腫瘍による閉塞を呈していた。狭窄部が肛門縁から5cm以内に位置しており、ステント留置の相対的禁忌に近い困難な部位であった11)。通常のステントでは肛門縁にかかるため留置困難と判断し、Jabaraステントを選択した。
手技と経過:ステント留置後、遠位端が肛門から体外に露出した。本来であればmigrationまたは留置不適として問題となる状況であるが、Jabaraステントが狭窄部で蛇腹構造のメッシュを収束させる特性を活用し、用手的に直腸内へ整復した(図4)。具体的には、肛門から露出したステントを用手的に肛門内へ押し戻し、内視鏡で確認しながら肛門縁にかからない位置まで短縮・適合(shortening and fitting)させた(動画2)。従来のアンカバードステントやダブルレイヤー構造のカバードステントでは、組織嵌入やワイヤー構造の剛性のため、指による短縮操作は到底不可能である。
用手整復後、テネスムスや疼痛などの肛門刺激症状は出現しなかった。以降、良好な開存を維持し、全身状態の改善を経て根治手術を施行した。

図4

図4

動画

2.3. 症例3:Palliation(PAL)/化学療法後の自然脱落

臨床背景:60代女性。切除不能S状結腸癌による高度狭窄のため、化学療法の開始が困難であった(図5)。化学療法に先立ち、減圧目的でJabaraステントを留置した(図6)。留置にあたっては、化学療法が奏効し腫瘍が縮小すればステントが自然に脱落することを、あらかじめ想定したうえでの戦略的な選択であった。ステント留置後39日目の内視鏡では、狭窄部の十分な拡張が確認された(図7)

図5

図5

図6

図6

図7

図7

経過:ステント留置後24日目に化学療法を開始し、68日目に腹部X線にてステントの自然脱落を確認した(図8)。脱落後も再閉塞は認められず、化学療法は中断することなく継続されている。

考察:通常、化学療法中のステント逸脱は有害事象とみなされる。しかし本症例では、化学療法の奏効に伴う腫瘍縮小によりステントの固定力が消失した結果としての自然脱落であり、「役割を終えた後の安全な離脱(safedeparture)」と位置づけられる。被膜を有する本ステントは腫瘍表面に組織嵌入しないため、脱落時に腫瘍や腸管壁を損傷するリスクも低い。このような自然脱落は、腫瘍縮小を間接的に示す臨床的指標としての意義を有すると考えられる。

図8

図8

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