内視鏡検査中に発語で所見入力可能なうえ、
問診入力のペーパーレス化も可能なシステムの構築と運用を実現
大阪医科薬科大学病院では2018年1月から、内視鏡部門システムとして「内視鏡マネジメントシステムSolemio QUEV」を活用してきました。これに2021年1月、音声入力・問診システムであるレイシスソフトウエアーサービス株式会社(以下、レイシス社)のVoice Captureを連携し、内視鏡検査中に発語で所見入力可能なうえ、問診入力のペーパーレス化も可能なシステムの構築と運用を実現しました。全国でも先進的な同院のデジタル化によって、内視鏡関連業務にどのような変化が生まれるか、同大学第二内科主任教授の西川浩樹先生、同院消化器内視鏡センターの医師・岩坪太郎先生、内視鏡技師・阿部真也様のそれぞれの視点からもお話しいただきました。
内視鏡検査におけるVoice Captureを活用した音声入力イメージ
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システムの活用・意識改革・魅力的な医局運営が業務改善を可能にする
大阪医科薬科大学第二内科 主任教授 西川 浩樹 先生
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豊富な診療実績を医療の発展に結実させていく
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大阪医科薬科大学病院(以下、当院)は大阪府三島医療圏で唯一の特定機能病院であり、消化器内科(以下、当科)においてもハイボリュームセンターと位置付けられる内視鏡検査数を実施しています。特徴として挙げられるのが、炎症性腸疾患の症例数が多いことで、潰瘍性大腸炎やクローン病などの診断やサーベイランスのために施行する下部内視鏡検査の件数は全国有数の実績です。
内視鏡診断・治療のすそ野は広がっていますが、地域の中核病院として私たちには難治症例に対応する責務があると考えています。当科では、近隣で開業する先生方を積極的に訪問し、診断や治療に難渋する患者さんの紹介をお願いする活動に力を入れてきました。その結果が豊富な診療実績に結びついていますが、その蓄積をエビデンス創出によって医療の発展につなげることもまた、私たちの責務です。2022年度の診療報酬改定で「内視鏡的逆流防止粘膜切除術」が新たに保険収載されましたが、当科による胃食道逆流症に対する内視鏡的噴門部粘膜切除(ESD-G)の臨床データ蓄積とその論文化1)が、これに寄与できたと考えています。 -
また、大学病院の役割としては、診療科間連携を生かしたより高度な診療の提供も重要と言えます。当科では消化器外科と連携した治療として、腹腔鏡・内視鏡合同手術(LECS)による胃粘膜下腫瘍などの病変に対する局所切除にも取り組んでいます。
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Solemio QUEVと音声入力・問診システムの連携・活用による内視鏡関連業務のさらなる効率化に期待
医師の働き方改革により、業務の効率化がいよいよ求められており、当院では内視鏡関連業務のさらなる効率化が課題となります。
当院の内視鏡検査室は8室、内視鏡医は約20名ですが、基本的に常時6室以上が稼働しています。そうしたなか、検査室の高い運用効率を実現するには、患者さんの入退室に伴う時間のロスを極力減らすなど、検査間隔を短縮する工夫が重要と言えます。そうした観点から、当院では2018年に導入した内視鏡部門システムとしてのSolemio QUEVの機能を活用し、コントロール室から全ての検査・処置の状況をリアルタイムで確認できる体制を構築しました。今後、このシステムのさらなる活用により、内視鏡関連業務の効率化が進むことに大きな期待を持っています。業務削減への成果をデータで評価することができれば、Solemio QUEVの他施設への普及にもつながるのではないかと思います。
また、内視鏡医は検査後の所見入力に時間的負担を強いられている現状があります。2021年1月にSolemio QUEVに連携させて導入した音声入力・問診システムVoice Captureによって、所見入力時間の短縮化につながることも期待しています。 -
若手にとって魅力的な医局運営によって
人材の余裕を確保しタスクシェアを進めたい業務の効率化・円滑化のためにはシステムの活用と同時に、スタッフ1人ひとりの意識改革も不可欠だと思います。システムや機器の力を借りながら、まずはお互いのコミュニケーションを良好にし、改善に向けて協力し合うことが何より大切だと考えています。カンファレンスのコンパクト化も必要であり、参加者1人ひとりが枝葉末節を排してエッセンスを明確にしたプレゼンテーションを目指す意識が求められると思います。加えて、当院の外来診療では医師の指示のもと、医療クラークが診断書などの記載業務に携わっており、タスクシフトを実現しています。
また、限られた時間の中で病院の機能を維持するためには、タスクシェアの推進も必要になりますが、それには十分な人材の確保が最も重要だと考えています。このような観点からも、若手が入局したいと思える魅力的な環境づくりのため、雰囲気の良さや教育の手厚さを重視した医局運営を心がけたいと思っています。「業務効率化」と「密度の濃い業務」というのは相反する側面もありますが、両立を目指し、今後の働き方改革の動向も踏まえてしっかりと議論を進めていこうと考えています。
1) Ota K, et al. BMC Gastroenterol. 2021; 21: 432.
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内視鏡部門システムと音声入力・問診システムの連携で実現する所見入力やレポート作成の省力化
消化器内視鏡センター 岩坪 太郎 先生
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「オウム返し機能」搭載でスムーズかつ正確な音声入力が可能に
当院では、2019年に「スーパースマートホスピタル構想」が掲げられました。新棟が建設され、AIやICTの積極的な導入・活用が図られるなか、新棟内で一新された消化器内視鏡センター(以下、当センター)でもデジタル化が推進されてきました。その中で私たち内視鏡医が特に高い関心を持った課題が、所見入力の省力化でした。内視鏡検査後の所見入力は煩雑で負担の大きな業務であり、検査中にリアルタイムの所見入力が可能なシステムの導入を模索し始めたのです。
当時、すでにレイシス社が音声入力・問診システムであるVoice Captureの初期バージョンを開発していました。そのうえで、当センターにVoice Captureを導入するにあたり、レイシス社と協働し音声入力時の登録内容確認手順の改善に取り組みました。肝となったのは、「オウム返し機能」です。内視鏡医の発した言葉を人工音声が「オウム返し」してくれることで、Voice Captureが正確に認識したことを音声で確認できるようになりました。
そして2021年1月に、導入済みの内視鏡部門システムのSolemio QUEVに連携させてVoice Captureを導入しました。音声入力における誤認識を極力避けるため、使用する用語はシンプルかつ使用頻度の高い用語を選び、登録する語数を少なくするなどの調整を施しました。その後、消化器内視鏡センターが入る新棟が完成した2022年7月からSolemio QUEVとVoice Captureの連携が本格稼働しています。 -
スクリーニング検査やシンプルな処置では音声入力のみで所見入力を完結できる
導入後の使用感として、特に有用だと感じているのは、スクリーニング検査や外来でのポリペクトミーのようにシンプルな手技で完遂する処置での活用です。複雑な所見を入力しませんから、音声入力されたシンプルな所見のみでレポート作成を完結できます。また、下部内視鏡検査では、病変が多発しているケースも少なくありませんが、それらの病変について部位、肉眼型、サイズなどの所見情報や行った手技を正確に記憶し、検査後に手入力するのは負担となるケースがあります。このため、個々の病変の特徴をリアルタイムに音声入力で記録に残すことも、検査後の業務負担軽減に直結すると思います。
一方で、拡大スコープを使用する精査目的の内視鏡検査や、EMR、 ESDのように入院を要する処置では、複雑な所見の入力を要するケースも多いため、施行後に追加で従来どおり手入力を行うことで、所見入力を完結しています。
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撮影画像枚数が多い場合に有用な音声入力での画像選択・レポート添付指示
下部内視鏡検査の際、複数病変に対し撮影した画像が数十枚にもなれば、検査後にレポート添付用の画像を選ぶ際の負担も大きくなりがちです。検査後に画像と観察した内視鏡所見を対応付けるのに苦慮することも多かったのですが、音声入力によって、検査中に画像選択しレポートへの添付指示まで行うことが可能となりました。
この音声入力での画像添付は、定期フォローアップ目的の検査の場合も活用できます。前回検査と所見が大きく変わらない場合、画像選択・添付のみを音声入力で行い、所見入力にはSolemio QUEVが搭載する過去レポートのコピー機能を使えば、少ない労力でレポートを完成させることができます。
熟練医であれば音声入力の使用により検査の質は変わらずにレポート作成時間を短縮
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Voice Captureが本格稼働して以降、音声入力が負担となって検査の質に悪い影響を与えていると感じたことはありません。当センターと関連施設の熟練した内視鏡医を対象に臨床研究を行い、音声入力の使用の有無により1回の検査に入力する内視鏡所見数を比較してみましたが、差は認められませんでした2)。したがって診断精度への明らかな影響はないと受け止めています。
ただ、拡大スコープを使用する精査目的の内視鏡検査では、私の場合、黙っているほうが集中できるので、観察により集中するために音声入力は使用しないこともあります。音声入力はあくまでも手段の一つと位置付け、シチュエーションに応じて使い分けるようにしています。また、熟練していない若手内視鏡医の場合も、観察と音声入力を並行して行うことで検査の質に影響する懸念があると考えており、当センターでは今のところ、熟練医だけが利用する形としています。教育の観点では、医学生に臨床実習で内視鏡検査を見学してもらうときに音声入力を使用すると、発話した所見名から、画像に対する判定や診断をその場で確かめてもらうことができるので、学習の一助になっていると感じています。 -
なお、Solemio QUEVには症例データに対するキーワード検索機能が搭載されており、臨床研究のための症例データ集積や院内報告のための件数集計に活用しています。フリーワード検索できるので、自由度の高いデータ抽出によって詳細な分析が行えるのですが、この機能を使い、私自身の検査症例を対象に、音声入力の使用の有無によりレポート作成時間を比較してみました。その結果、音声入力が実際にレポート作成時間短縮に寄与していることを確かめられました。
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患者さんへの配慮のためキーコードでの所見音声入力が可能
音声入力にあたってはヘッドセットを装着して検査を行っており、現在は骨伝導タイプのイヤホンを使用してさらにスムーズな所見入力が可能になったと感じています。ただ、骨伝導イヤホンはマイクの集音性能も高く、周囲のスタッフの声や雑音を誤認識してしまう可能性があるので、状況に応じて「認識OFF」と発話し音声入力機能を切るようにしています。
鎮静をかけていない患者さんに音声入力を使用する場合、余計な不安を抱かせないように、音声入力を行う旨を事前説明することも大事です。マイク性能が向上したことで、患者さんに聞こえない程度の声量で話しても正確に認識されるようになりましたが、特にスクリーニング検査では、「がん」などのワードはキーコード入力で「隠語」を使うといった配慮をしています。
2) Yokota Y, Iwatsubo T, et al. J Gastroenterol. 2022; 57: 1-9.
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Solemio QUEVと音声入力・問診システムの連携・活用により検査室の運用を円滑化し業務負担も軽減
消化器内視鏡センター 技師長補佐 阿部 真也 様
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各検査室やスコープの洗浄状況を把握しながら
検査室のより効率的な運用を目指す
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内視鏡技師の立場から、検査室の効率的な運用を考えたとき、患者さんの到着状況や各検査室の検査状況を詳細に把握しておくことが大事だと考えています。当センターでは、電子カルテシステムと連動した内視鏡部門システムSolemio QUEV上でそれらの情報を一括管理し、コントロール室を通じてスタッフ全員で共有しながら、次の検査の準備などを進められる体制となっています。 Solemio QUEVのモニター画面上には、予約患者さんの受付状況が明示されるとともに、各検査室のステータスが並行して表示されています。各室の状況を把握しながら、受付を終えた患者さんの検査準備を始めることで、滞りのない検査室の運用を柔軟に調整することができます。予約患者さんの過去の検査履歴やスコープの使用履歴もSolemio QUEV上で確認できるので、適切なスコープを準備できますし、もし使用したいスコープが洗浄中であれば受付状況をSolemio QUEV上で確認し、検査時間を調整します。このようにしてSolemio QUEVを活用し、検査室もスコープも最大限効率的に運用します。なおSolemio QUEV上で管理しているスコープの洗浄履歴は、1日の検査業務終了後、検査実績とともに一覧表形式でプリントアウトし、保管しています。そのような履歴管理は病院機能評価や病院監査を受ける際に役立っています。
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Solemio QUEVのその他の機能に関しては、検査数や症例数などの集計のため、Solemio QUEVの統計機能をフォーマット化し、さまざまなデータを迅速に出力できるようにしています。また運用面では、Solemio QUEVの画面表示のユーザー設定機能を積極的に活用しました。例えば患者さんの表示順は、取り違えの確実な防止を意識して視覚的効果があるようにアレンジしています。患者さんの診療情報については、検査準備に重要だと考えられる情報の優先順位を高め、それらの情報へのアクセスがしやすい形にカスタマイズしました。前回使用したスコープや病変の部位、前回所見などに迅速にアクセスでき、スムーズな検査実施につながっています。
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EVIS X1とSolemio QUEVの連携により
検査中のスコープ交換もスムーズに行えるなお、内視鏡システムをEVIS X1に変更する以前は、内視鏡システムからスコープを脱着することがSolemio QUEV上での検査開始・終了に連動していました。そのため検査途中で別のスコープに交換すると、Solemio QUEV上では検査が終了となってしまうため、看護師が次の患者さんの検査準備を始めてしまうケースもありました。しかし、X1システムがSolemio QUEVと連携するようになって、検査を終了するにはX1システムのタッチパネル上での入力が必要になりました。Solemio QUEV上でも検査が継続していることが明示され、検査室運用に混乱をきたすようなことは起こらなくなっています。
また、電子カルテなど他システムとSolemio QUEVの連携に必要な用語のマスタ登録は、診療報酬改定時に変更が求められます。当センターでは内視鏡技師が入力し、医事課と協力しながら動作確認を行う仕組みが定着しました。このようなシステム間連携は、実施した検査・処置について加算の算定漏れを防ぐうえでも重要です。 -
音声入力機能は改善を重ねるなかで音声認識精度を向上
Voice Captureの導入当時は、いくつか準備に手間を要した点がありました。音声入力する言葉が所見として確実に認識されるようにするため、内視鏡医が必要とする用語をピックアップし、Solemio QUEVに登録されている用語と紐づく形でマスタ登録する作業は、一連の中で最も重要な作業でした。また、内視鏡医の発話が不明瞭なときや、検査室内の背景雑音があったときに音声認識が正しくなされないこともありました。そのため、内視鏡介助のスタッフは、検査・処置中、音声入力のトラブルシューティングに対応するためにタブレット画面を注視しなければなりませんでした。
しかし、Voice Captureのアップデートを重ねるなかで、これらの問題は改善されています。より高性能のマイクを使用するようにした影響もあると思いますが、内視鏡医の発話が声質や背景雑音に左右されず、安定して高い精度で音声認識され、スムーズに入力されるようになっています。現在では内視鏡医の音声入力に対してエラー表示される場合や、音声認識がスムーズにいかない場合にだけ、介助者や周囲のスタッフがタブレット画面を確認して入力をアシストする程度となりました。内視鏡医も音声入力に慣れ、Voice Captureへの信頼を高めているようで、発話後にタブレット画面を確認する姿をほとんど見かけなくなりました。「オウム返し」の音声のみで入力確認し、タブレットに視線を向けるのは最後の登録確認だけの場合が多いです。
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問診入力機能で看護師の問診業務の効率性も向上
Voice Captureには、音声入力だけでなく、問診入力機能も搭載されており、Solemio QUEVの問診記録欄に記録が保存される連携を行っています。内視鏡検査の予約時に二次元バーコードが発行され、患者さんは自宅で本人のスマートフォンからVoice Captureのシステム上に問診入力できる仕組みになっています。スマートフォンの扱いに慣れていない患者さんが、来院して検査の受付を行った後、受付スタッフのサポートを受けながらタブレット入力することはありますが、問診業務で看護師が担うのは、基本的に抗血栓薬の服用状況や食事の摂取状況などの確認に限られるようになりました。
ペーパーレスの問診入力によって、検査フロー全体が効率化されていると感じます。以前は必須業務だった問診票の入力内容をデータ化するためのスキャンが不要になりました。また、Voice Captureの問診入力は、前回検査で入力された情報をベースに新しい情報を追加できるため、患者さんによる記入漏れや誤入力、看護師による確認漏れも減少し、安全性の向上にも寄与しています。
Solemio QUEVによって実現されたさまざまな情報の一括管理やVoice Captureがもたらす検査の効率化は、当院の内視鏡関連業務の安全と質の両立に貢献しています。内視鏡技師として今後を展望するなら、例えばSolemio QUEV上で内視鏡の修理依頼や、機器の取扱説明書の確認が容易にできるなどの機能が付加されれば、より作業効率化に寄与してくれるように思っています。
参考症例動画
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