• Alt tag Alt tag

    ADR特集大腸ADR総論

  • 東京慈恵会医科大学内視鏡医学講座
    玉井 尚人 先生

大腸内視鏡内視鏡における腺腫検出率(ADR)

 大腸内視鏡における最も重要な使命は、前がん病変を確実に検出し、大腸内視鏡後大腸がん(PCCRC:Post-colonoscopy colorectal cancer)の発生を最小限に抑えることである。PCCRC は 0.7〜1.7 症例/1,000 人年と報告されており、三年に一度の大腸内視鏡検査を年間 1,000 件の大腸内視鏡を実施する施設では 2〜5 例が発生するため、決して軽視できない数字であるが、この頻度では、個々の内視鏡医単位で PCCRC の発生率を評価することは現実的ではなく、その代替指標として腺腫検出率(ADR: Adenoma Detection Rate)が重視されてきた。ADR は大腸内視鏡検査で 1 個以上の腺腫を検出した割合を意味し、内視鏡医の腺腫検出能力を直接的に示す指標として位置付けられている。

ADR基準値の変遷と最新動向

  •  ADR の臨床的意義は多くの大規模研究で一貫して支持されている。たとえば、ADR が 20%未満の内視鏡医は 20%以上の医師と比較して PCCRC を発生させるリスクが 10 倍以上高いことが示されている。また、ADR が 5%上昇するごとに大腸がんの生涯発症率は平均 11.4%低下し、大腸がん死亡率も 12.8%減少する。
    つまり ADR は単なる技術力の指標ではなく、患者の予後に直結する重要なアウトカム指標といえる。このため ADR は「内視鏡医の成績表」として国際的にも広く用いられており、スクリーニング内視鏡の質保証の中心的役割を果たしている。

  •  ADR の基準値はここ十数年で段階的に引き上げられてきた。従来は男性 30%以上、女性 20%以上が目標とされてきたが、近年のエビデンスの蓄積を受け、より高い検出率が求められるようになった。2024 年の最新基準では、一般の検査において男性 40%以上、女性 30%以上が推奨されている。さらにFIT陽性患者を対象とし、男性 55%以上、女性 45%以上(男女合わせて50%以上)という一段と高い目標値が示されている。近年ではadenoma carcinoma sequenceのみならず、鋸歯状病変(SSL)を代表とする serrated pathway発がん経路が注目されており、従来の ADR だけでは内視鏡医の病変検出力を完全には把握できないという指摘もある。またADRには“One and Done” と呼ばれる問題が指摘されており、最初の腺腫を発見した後に緊張感が緩み、以降の観察が不十分になることで追加病変が見逃される危険性が指摘されている。このため SSLDR(鋸歯状病変検出率)や APC(一検査当たりの腺腫検出数)など、より包括的な新しい質指標も導入されつつある。

ADR評価の課題と新基準の方向性

 一方で ADR にはいくつかの課題も存在する。算出対象を「50 歳以上の無症候性の初回スクリーニング大腸内視鏡」に限定する従来の定義では、実臨床を反映した評価が困難であった。
こうした問題点を背景に、2024 年の新基準では surveillance や診断目的の検査も算出対象に含める方向へと変化し、より現実的で理解しやすい指標へと進化しつつある。

ADR向上のための自己認識と自己フィードバックの重要性

 ADR を向上させるためには、内視鏡医自身の継続的な努力が不可欠である。大腸内視鏡検査開始時の段階から ADR の個人差は大きく、必ずしも研修期間を終えることで自然と改善するわけではない。したがって、系統的な教育と継続的な評価が重要である。各施設での大腸内視鏡検査のquality indicator(ADR/APCなど)を各内視鏡医へフィードバックを行うことADRの向上に寄与すると報告されてれているが、各内視鏡医の心理的な圧迫につながる可能性は否定できない。
そこでお勧めしたいのが、自己認識(Self-recognition)と自己フィードバック(Self-feedback)である。本邦の実臨床で最も応用しやすい値と考えられる“FIT陽性患者におけるADR>50%”を達成できているかを自身で1か月ごとに把握することは、観察姿勢そのものを変化させ、結果的に検出率向上につながると考える。

AI技術とどう向き合うか

 近年では AI 技術、特に CADe(computer-aided detection)が注目されており、AI による病変検出支援が ADR 向上に寄与することが期待されている。しかし、CADe導入前後でADRを比較した後ろ向き研究で、CADeの導入により ADR が低下するという報告もなされている。最終的には、内視鏡医自身が病変を見つけようとする姿勢と観察の緻密さが最も重要であることに変わりはない。

ADRの理解と活用する意義

 ADR は患者の予後を左右する極めて重要な指標であり、内視鏡医が自身のADRを把握することは、観察技術を磨き続けるための羅針盤となるだけでなく、新しいモダリティと自身との相性を理解することが可能になる。ADR を正しく理解し活用することは、PCCRC の発生を最小化し、患者の生命予後を改善するための最も有効な戦略であり、最終的には各内視鏡医の観察法の個別化の実現へ寄与すると考える。


Contact

製品のデモ依頼やWeb面談など、
各種お問い合わせはこちらからお願いします。

遷移先ページは学術情報を含みます