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EVIS X1 Case Report 胃癌スクリーニングにおけるEVIS X1およびGIF-1200Nの使用経験 - 胃癌のスペクトラムの変化とNBI、TXIモード2画像強調の有用性 -
はじめに
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JCHO山梨病院 消化器病センター 佐藤 公 先生
胃癌スクリーニングにおける「EVIS X1」および「GIF-1200N」の使用経験、およびNBI、TXIモード2の有用性ついてご報告をいただいております。また、見落としのない胃癌診断を行う際のポイントやピロリ菌感染状況に応じた胃癌診断のポイントについて解説をいただいております。
胃癌のスペクトラムを意識した胃がんスクリーニング
2000年にヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療が保険適用となり、その後、適応疾患が順次拡大されてきた。当時のピロリ菌感染率は約70%と推定され、こうした感染者の多くが除菌治療という介入を受けつつ、今日胃がんの好発年齢を迎えている。一方で、胃癌スクリーニングの対象者に占めるピロリ菌未感染者の比率は年々増加し、こうした感染状況の変化を背景に、診断される胃がんのスペクトラムにも変化がみられている。現感染者に認められる典型的な胃癌は減少する一方で、除菌後に診断される胃癌では胃炎様と称される異型度の低い上皮に覆われることがあり、病変の認識が困難となることも知られている。また除菌後にみられる地図状発赤などを背景に、小さな胃がん病変では認識が難しくなることも少なくない。一方で、ピロリ菌未感染者においても、従来から知られる印環細胞癌に加えて、胃底腺型胃癌や幽門腺由来腫瘍やラズベリー腫瘍など、従来とは異なる胃癌の報告が増加している。今日の胃癌の拾い上げ診断においては、こうした胃癌のスペクトラムの変化を念頭に、解像度の高い内視鏡システムと適切な画像強調法の使用が有用と考え、検討を進めている。
当院では胃がん内視鏡検診として通常年間約17,000件の上部消化管内視鏡による胃癌検診を実施しており、EVIS X1システム (CV-1500)およびGIF-1200Nを導入した2020年度には新型コロナウイルス感染による制限の中31例の胃がんを診断した。頻度的には除菌後の分化型腺癌が過半数を占めるが、経年的にみると印環細胞癌および胃底腺型胃癌の頻度が増加しており、背景胃粘膜の状態、ピロリ菌感染状況を意識して観察することが見落としのない胃癌診断につながると考えている。以下に、当院でオリンパスEVIS X1システムおよびGIF-1200Nを導入した2020年から約1年の間に経験した症例の一部を提示する。
ピロリ菌未感染胃に認める胃がんの特徴
症例1と2はピロリ菌未感染者に診断された印環細胞癌の症例である。ピロリ未感染胃がんで診断される印環細胞癌は、胃体下部から近位前庭部大弯と胃角部にかけた帯状の中間帯に、褪色した粘膜域として診断されることが多い。この領域では、幽門腺と胃底腺が移行し、しばしば非癌の褪色粘膜斑もみられることから、その鑑別が重要となる。白色光観察では病変は白色の領域として認識されるが、その程度が淡く境界が不明瞭なことも少なくない。TXI (texture and color enhancement imaging)は、構造強調に加えて、色調も強調される画像強調法である。白色光観察に慣れた眼(脳)には、導入時には、やや強調の程度が強く感じられたが、慣れると微細な色調や構造の違いを強調し、病変の認識が容易となる。通常、印環細胞癌は胃底腺腺頸部から発生し、細胞質に粘液を蓄えつつ腺窩上皮にも発育してゆく。印環細胞の分布密度と表面までの距離は同一病変の中でも均一ではなく、これが近接観察における病変内の不均一性の要因と推定される。具合的例を以下に示す。
症例1(図1a~c)ピロリ菌未感染胃印環細胞癌症例
白色光観察では胃角部前壁寄りに不整形の褪色調の粘膜域を認める(図1a)。TXI観察では病変は周囲粘膜と比較して明瞭な褪色域となるため、その認識は容易となる(図1b)。さらに、GIF-1200Nでは近接観察により、弱拡大観察に近い退色域内部の表面構造の評価が可能である。NBIの近接観察では褪色域の色調は均一ではなく、表面構造も保たれる部位と不明瞭となる部位が混在していることがわかる(図1c)。
図1 症例1 ピロリ菌未感染胃に発生した印環細胞癌
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a) 白色光
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b) TXIモード2
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c) NBI
症例2(図2a~c)ピロリ菌未感染胃印環細胞癌症例
近位前庭部小弯に5㎜大の褪色粘膜を認める(図2a)。近接してNBIで観察すると病変と周囲粘膜とのコントラストはより明瞭となり、病変内の色調の分布も不均一なことがわかる(図2b)。インジゴカルミン色素内視鏡では、病変に一致してわずかな色素の貯まりを認めるが病変の境界および表面構造は不明瞭となる。(図2c)
図2 症例2 ピロリ菌未感染 印環細胞癌
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a) 白色光
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b) NBI
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c) インジゴカルミン色素内視鏡
症例3(図3a~d)除菌後に診断された胃底腺型胃癌症例
TXIモード2観察では、病変は胃体部大弯に、周囲に比べて明瞭な褪色を示し、わずかに陥凹した領域として認められる(図3a)。白色光では病変の認識は可能であるが、周囲とのコントラストは弱い(図3b)。NBI観察では、同様に周囲よりわずかに白色調の領域として認識できる(図3c)。更に近接して観察すると、粗造ではあるが胃底腺粘膜の基本構造が明瞭に観察できる(図3d)。
図3 症例3 除菌後に診断された胃底腺型胃癌
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a) TXI モード2
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b) 白色光
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c) NBI
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d) NBI 近接像
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