医療従事者コンテンツ
Cold Polypectomy Start Guide
はじめに
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東邦大学医療センター大森病院 松田 尚久 先生
Cold Polypectomy手技のStart Guideをご執筆いただきました。
01Cold polypectomy手技普及の背景
米国National Polyp Study (NPS) groupから、大腸腺腫性ポリープをすべて内視鏡的に切除することにより76~90%の 大腸癌罹患率抑制と53%の大腸癌死亡率減少効果が得られるという報告がなされ1), 2)、世界的に腫瘍性ポリープの内視鏡的切 除が支持されるに至った。
しかし日本では、大腸腺腫・早期癌の自然史の解明や表面型腫瘍や陥凹型大腸癌を重視する立場から、腺腫性ポリープを一律 に前癌病変として扱うべきではないという意見もあり、大腸ポリープ診療ガイドラインでも径5mm以下の微小ポリープの取扱 いについては、隆起性病変については経過観察が容認されている3)。さらに日常臨床の現場からは、スクリーニングおよびサーベ イランス大腸内視鏡検査(colonoscopy, CS)の際、すべての腺腫性ポリープを切除する労力と後出血等の偶発症発生リスクを 懸念する声が聞かれる。他方、1992年より便潜血検査免疫法で実施されている対策型大腸がん検診へのCS導入の可能性につ いても現在議論されており、径5mm以下の微小ポリープを切除せずに経過観察することによるサーベイランスCS件数の増加 が、検診CSのキャパシティを圧迫してしまうのではないかといった危惧もある。
現在進行中のJapan Polyp Study(JPS)では4)、すべての腺腫性ポリープを内視鏡的に切除したうえで長期追跡を行ってお り、そのフォローアップデータから大腸癌罹患抑制および大腸癌死亡率減少効果が示されることになると、日本においても海外 と同様にすべての腺腫性ポリープに対する内視鏡切除が推奨される可能性が高まる。そのような状況を考えると、より安全かつ 確実な腺腫性ポリープ切除法の確立が必要となってくる。
近年、欧米のみならず日本においても、高周波通電を用いない内視鏡的大腸ポリープ切除法としてcold polypectomy(CP) が注目されている。今回、CPのメリットおよび適応とその基本手技を中心に概説する。
02Cold polypectomyのメリットと内視鏡診断のポイント
Cold polypectomy(CP)には、cold forceps polypectomy(CFP)とcold snare polypectomy(CSP)の2つの方法が あり、いずれも従来の高周波通電によるhot biopsy(HB)やhot snare polypectomy(HSP)よりも簡便で、手技時間が短く、 偶発症リスクの低い安全性の高い治療手技である。
CPの最大のメリットは、後出血と穿孔の危険性が極めて低いことである。従来、径5mm以下の微小ポリープに対して積極的 に行っていたHBについては、多施設アンケートの結果から後出血率:0.26%、穿孔率:0.01%(HB施行例:14,382例)と報 告され5)、CFPの普及と偶発症の観点からその使用頻度は減少し、現在ではほとんどの施設で実施していない現状にある。HSP についても、後出血率:1.3%、穿孔率:0.34%(HSP施行例:34,433例)という結果から5)、高周波通電を用いないCSPが 俄然注目されることとなった。その後、CPとHP(hot polypectomy; HB+HSP)での後出血リスクに関するランダム化比較 試験(RCT)のメタアナリシスから6)、CP:0.1%(1/1,031)に対してHP:0.61%(6/985)とCPにおける後出血率の低さが 証明されている。さらにCSPはHSPに比べて、抗血栓薬内服中の被検者の後出血が少ないこともRCTによって報告されてい る7)。その他のCPのメリットとして、簡便さと手技時間の短縮が挙げられる。CPは高周波電流を用いないため対極板は不要で、 従来のポリープ切除と比べて手技時間が短縮される。実際にメタアナリシスの結果から、大容量のJumbo鉗子を用いたCFPおよびCSPは、従来の生検鉗子によるCFPよりも手技時間が2.66分有意に短いことが報告されている8)。
当初、CFPおよびCSPの不完全切除割合の高さを懸念する声もあったが、最近のメタアナリシスの結果では、CSPとHSP の完全切除割合はほぼ同等であると報告されている9)。しかし、CSPはHSPに比べて粘膜下層のマージンが十分に取れないと 言われており、癌を疑う病変に適応することは避けるべきである。従って、CPを選択する際には治療前の内視鏡診断が重要とな る。その際、大腸拡大NBI分類であるJNET分類が臨床的に有用である(表1)10)。JNET分類では、vessel patternとsurface patternの所見に基づいて総合的に診断する。口径不同のない血管が均一な分布を呈するvessel patternや、管状・樹枝状・乳 頭状などを示す整なsurface patternはType 2Aに分類され腺腫の指標となり、径10mm未満の病変であればCPの適応と考 えて良い(図1)。
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表1
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(国立がん研究センター研究開発費:斎藤豊班)
* 1. 認識可能な場合、周囲正常粘膜と同一径
* 2. 陥凹型については、微細血管が点状に分布されることが多く、整った網目・らせん状血管が観察されないこともある
* 3.T1b が含まれることもある
(国立がん研究センター研究開発費:斎藤豊班)
* 2. 陥凹型については、微細血管が点状に分布されることが多く、整った網目・らせん状血管が観察 されないこともある
図1
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villous tumor に見られるパターン
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陥凹型に見られるパターン
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<文献>
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- Winawer SJ, Zauber AG, Ho MN, et al. Prevention of colorectal cancer by colonoscopic polypectomy. The National Polyp Study Workgroup. N Engl J Med 1993; 329:1977–1981
- Zauber AG, Winawer SJ, O'Brien MJ, et al. Colonoscopic polypectomy and long-term prevention of colorectal-cancer deaths. N Engl J Med 2012; 366: 687-696
- 大腸ポリープ診療ガイドライン2020, 日本消化器病学会編, 南江堂, 東京, 2020
- Sano Y, Fujii T, Matsuda T, et al. Study design and patient recruitment for the Japan Polyp Study. Open Access J of Clin Trials. 2014; 6:37-44
- Oka S, Tanaka S, Kanao H, et al. Current status in the occurrence of postoperative bleeding, perforation and residual/local recurrence during colonoscopic treatment in Japan. Dig Endosc. 2010; 22: 376-380
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- Fujiya M, Sato H, Ueno N, et al. Efficacy and adverse events of cold vs hot polypectomy: A meta-analysis. World J Gastroenterol. 2016; 22: 5436-5444
- Horiuchi A, Nakayama Y, Kajiyama M et al. Removal of small colorectal polyps in anticoagulated patients: a prospective randomized comparison of cold snare and conventional polypectomy. Gastrointest Endosc 2014; 79: 417-423
- Raad D, Tripathi P, Cooper G, et al. Role of the cold biopsy technique in diminutive and small colonic polyp removal:
- Shinozaki S, Kobayashi Y, Hayashi Y et al. Efficacy and safety of cold versus hot snare polypectomy for resecting small colorectal polyps: systematic review and meta-analysis. Dig Endosc 2018; 30: 592-599
- Sano Y, Tanaka S, Kudo SE, et al. Narrow-band imaging (NBI) magnifying endoscopic classification of colorectal tumors proposed by the Japan NBI Expert Team. Dig Endosc 2016; 28: 526-533
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